名古屋大学整形外科小児グループ市民公開講座(平成30年2月17日)の報告

名古屋大学整形外科小児グループ市民公開講座(平成30年2月17日)の報告
低身長症患者さんの生活 ~アンケート調査より~

【文責】名古屋大学整形外科 松下雅樹

はじめに

軟骨無(低)形成症は、低身長や四肢の変形を主訴に小児期には医療機関を受診され治療を受ける機会が多いですが、成長終了後の長期成績や生活の質を検討した報告はほとんどありません。成長終了後の軟骨無(低)形成症患者さんの生活の質を明らかにするために、アンケート調査を行いました。

方法および結果

患者会(つくしの会、つくしんぼ)所属または共同研究施設(名古屋大学整形外科、大阪大学小児科、東京大学リハビリテーション科)に受診歴のある軟骨無(低)形成症患者さんで10歳以上を対象としました。年齢、最終身長、骨延長や脊椎手術歴などの問診表に加え、包括的健康尺度はSF-36(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)ver.2.0 日本語版を使用し調査を行いました。SF-36は、身体機能スコア、精神機能スコア、役割・社会機能スコアを算出することができ、それぞれのスコアを国民標準値と比較することが可能です。アンケートは患者会事務局または共同研究施設より発送し、回答が得られた201人を調査しました。
身体機能スコアは、加齢により低下し、いずれの年代においても国民標準値より有意に低下していました(図1)。日常生活で困っている症状のうち50歳以上で多かったものは腰や下肢の痛み、しびれや筋力低下でした。これらの症状は主に軟骨無形成症に合併する脊柱管狭窄症に起因する症状と考えられます。また、脊椎手術歴の割合は年齢とともに増加することが分かりました(図2)。したがって、主に脊柱管狭窄症の症状が加齢とともに出現・悪化することが原因で身体機能スコアが低下すると考えられます。

一方、年代別平均身長は30歳代から60歳代にかけて低下することが分かりました(図3)。よって、低身長が原因で身体機能スコアが加齢とともに低下する可能性も考えられます。骨延長は主に10歳代で治療を行いますので、下腿・大腿骨延長治療歴の割合は10歳代から20歳代にかけて増加します。また、骨延長は約30年前に始まった治療法であることから、30歳代から60歳代にかけて減少します。このように、年代別骨延長治療の割合に応じて年代別平均身長が変化します(図3)。

低身長に対して現在国内で行われている治療法は成長ホルモンと下腿・大腿骨延長です。140 cm未満の群では身体機能スコアが国民標準値より有意に低下するのに対し、140 cm以上の群では国民標準値と著変ありませんでした(図4)。最終身長140 cm以上を目指すためには成長ホルモンと骨延長を組み合わせて治療する必要があります(図5)。

日常生活において低身長のために困ることは多数あります。電気のスイッチ、タッチパネル、高いところの商品、エレベーターのボタンなど、手が届かないところが多いです。衣服を選ぶのに小さいサイズのバリエーションがないだけでなく、短い上肢に合った服がありません。軟骨無(低)形成症は低身長に加え特に上肢と下肢が短い(四肢短縮型低身長)ために、小さいサイズの服を購入しても直しが必要です。また、七分袖を購入して着用することもあります。トイレは、便座が高すぎる、トイレットペーパーまで手が届かない、和式は困難などの理由で、外出先で困ることが多いです。また、お尻に手が届かない患者さんはウォシュレットが必要です。段差がきついと感じている患者さんや、杖や車椅子を使用している患者さんもいます(図6)。

日常生活で工夫されていることは多数あります(図7)。運転免許取得率は比較的高いですが、低身長のために車はアクセルとブレーキを手動にする、ペダルを延長するなど改造しないと使用できない患者さんもいます(図8)。足台を使用している患者さんは最も多いですが、高い台の使用は危険です。また、高い足台を使っても短い上肢のために奥の方に手が届かなくて困ることがあります。上腕延長治療歴のある方は少数ですが、上腕延長を行うと身体機能スコアは改善傾向を示しました(図9)。

一方、精神機能スコアは、いずれの年代も国民標準値と著変ありませんでした(図10)。しかし、軟骨無(低)形成症に対する職場の理解が足らない、他人からジロジロ見られるなどの精神的苦痛を感じている患者さんは多いです。役割・社会機能スコアは50歳以上でやや低下していました(図11)。

軟骨無(低)形成症の小児患者さんは普通学級で教育を受けることが多いですが、配慮や支援が必要なことがあります。疾患の重症度の高い一部の患者さんは支援学級や養護学校で教育を受けています(図12)。最終学歴は一般の割合と比較して著変ありませんでした(図12)。既婚者は一般と比較して少ないですが、子供がいる患者さんもいます(図13)。

まとめ

軟骨無(低)形成症患者さんの身体機能スコアは年齢とともに低下しますが、主に脊柱管狭窄症に起因すると考えられます。成長ホルモンと骨延長治療を組み合わせて最終身長140 cm以上を目指すと軟骨無(低)形成症患者さんの身体機能スコアは改善します。上腕骨延長により身体機能スコアが改善する可能性があります。精神機能スコアと役割・社会機能スコアは国民標準値と著変ありませんでした。