抗てんかん薬・抗パーキンソン病薬ゾニサミドは脊髄運動神経の軸索延長を促進する

ポイント

1.背景

外傷ならびに他の原因による末梢神経障害に対して、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ラミニン、カドヘリン-11などの局所投与が有効であることが知られていますが、いずれも半減期が短く局所投与が必要な難点があり臨床応用されていません。モデルマウスでは細胞治療が有効であることも報告されていますが、腫瘍化の抑制など今後解決するべき課題があります。既存の薬剤の新規薬効を活用するドラッグリポジショニング戦略は、ヒトに対する至適投与量、副作用、禁忌が確立しており安全性が高い薬剤の安価かつ迅速な臨床応用を可能にします。特に患者数が少ない希少疾患に対してドラッグリポジショニング戦略は有効です。本研究で同定したゾニサミドは、ドラッグリポジショニング薬として既にパーキンソン病に使われています。ゾニサミドは、1989年から我が国で抗てんかん薬として広く使われてきました。2001年にパーキンソン病に対する効果が報告され、2009年にドラッグリポジショニング薬としてパーキンソン病への適用が承認されました。

2.研究成果

研究チームは、既認可薬の薬剤パネルを用いて、マウス脊髄前角細胞由来NSC34細胞の軸索延長促進作用のスクリーニングを行い、ゾニサミドがNSC34細胞ならびに初代培養マウス脊髄前角細胞の神経突起の長さと分岐数を濃度依存的に増加させることを明らかにしました。初代培養マウス脊髄前角細胞の神経突起網を培養皿上で作成した後に、神経突起網を傷つけ、神経突起再生を観察したところ、ゾニサミドは濃度依存的に神経突起再生が促進しました(図1)。同様に、初代培養マウス脊髄前角細胞を培養顕微鏡下で80時間連続観察したところ、ゾニサミドは、神経突起延長開始には影響を与えず、神経突起延の延長を促進しました(図2)。ゾニサミドは、初代培養マウス脊髄前角細胞の神経栄養因子Bdnf, Ngf, Ntf4と、その受容体Ntrk1, Ntrk2の遺伝子発現を誘導しました。マウス坐骨神経を3 mmの間隔で2カ所切断し、再度縫合する末梢神経自家移植モデルを作成して、ゾニサミドを経口投与したところ、1週間後には神経軸索面積が3倍以上に増加し、5週目以降は下肢運動機能が改善し、8週後の観察で再生筋繊維直径を増加させました。また、ゾニサミドは再生筋の神経筋接合部に特異的に発現するChrne, Colq, Rapsnの遺伝子発現を増加させました。

3.今後の展開

外傷並びにその他の原因による末梢神経障害に対して、臨床応用が可能な薬剤はビタミン製剤を除いて存在しません。ゾニサミドは本邦において26年前から、米国では15年前から、欧州では10年前から抗てんかん薬として臨床で使われてきた安全な薬であり、6年前からはパーキンソン病に対しても適用を得ています。今後、ヒトの末梢神経障害ならびに末梢神経が骨格筋とシナプスを作る神経筋接合部障害に対するゾニサミドの有効性を、ヒトiPS細胞より分化させた運動神経細胞や神経筋接合部を用いて実証するとともに、臨床応用の可能性を検討します。

4.発表雑誌

Yagi H, Ohkawara B, Nakashima H, Ito K, Tsushima M, Ishii H, Noto K, Ohta K, Masuda M, Imagama S, Ishiguro N, Ohno K (2015) Zonisamide Enhances Neurite Elongation of Primary Motor Neurons and Facilitates Peripheral Nerve Regeneration In Vitro and in a Mouse Model. PLOS ONE 10(11): e0142786.

English ver.

http://www.med.nagoya-u.ac.jp/english01/dbps_data/_material_/nu_medical_en/_res/ResearchTopics/2015/zonisamide_20151116en.pdf

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[図1]初代培養マウス脊髄前角細胞の神経突起網を培養皿上で作成した後に、神経突起網を傷つけ、神経突起再生を観察した。ゾニサミドは神経突起再生を促進した。下のパネルは上のパネルの白枠部分の拡大。

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[図2]初代培養マウス脊髄前角細胞の神経突起延長を培養顕微鏡下で観察し自動定量した。ゾニサミドは神経突起延長を促進した。