ランソプラゾールはTNF受容体関連因子6 のポリユビキチン化を亢進しRunx2を介した骨芽細胞分化を促進する

ポイント

1.背景

超高齢社会の到来によって骨粗鬆症性骨折の新規発生数は増加の一途を辿り、要介護者の増加の一因となっています。こうした状況を打開し健康寿命を延伸するには、優れた骨粗鬆症治療薬に加えて骨折治癒促進剤の開発が望まれます。現在、骨形成促進剤として、唯一副甲状腺ホルモン製剤が臨床使用されていますが、注射での投与を必要とし薬価も高いため、低分子化合物の骨形成促進剤が望まれています。既存医薬品の新規薬効を活用するドラッグリポジショニング戦略は、ヒトに対する至適投与量、副作用、禁忌がすでに確立されており、安全性の高い薬剤の安価かつ迅速な臨床応用を可能です。本研究で同定したプロトンポンプ阻害薬ランソプラゾールは、強力な胃酸分泌抑制薬として本邦でも1992年から胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎などに幅広く使用されています。

2.研究成果

研究チームは、既認可薬の薬剤パネルからヒトRUNX2遺伝子のP1プロモーター活性を濃度依存的に上昇させる医薬品のスクリーニングを行い、ランソプラゾールを同定しました。ランソプラゾールは、マウス未分化間葉系幹細胞株、ヒト骨芽細胞様細胞株、ヒト間葉系幹細胞、ラット初代骨髄細胞のいずれにおいてもRunx2遺伝子の発現を濃度依存的に増加させました。ランソプラゾールはRunx2の核内集積を亢進させ、その転写活性化能を上昇させました。そして、ランソプラゾールは、Runx2の標的遺伝子であるSpp1遺伝子の発現や骨芽細胞分化マーカーであるALP活性を濃度依存的に上昇させました。さらに、患者由来ヒト初代骨髄細胞をランソプラゾール含有骨分化培養条件で培養すると、最終骨分化である基質の石灰化が促進されました。ラット大腿骨骨折モデルにランソプラゾールを全身投与すると、骨折部間隙の間充織内に形成される石灰化組織は増加し、骨折治癒過程が促進されました。
分子作用機序の解明を進めると、ランソプラゾールは、ヒト間葉系幹細胞において骨形成タンパク質 (BMP)の非古典的シグナル経路であるTGF-的活性化キナーゼ1 (TAK1)-p38 MAPK経路を活性化していることが確認されました。このTAK1-p38 MAPK経路はRunx2を活性化する主要な経路として知られています。MAPKKKであるTAK1は上流に位置するレセプターアダプター分子、TNF受容体関連因子6 (TRAF6)に会合したリシン63結合型ポリユビキチン鎖と結合することで自己リン酸化され活性化します。TRAF6はユビキチン化酵素活性を有し、自己ポリユビキチン化することでシグナル伝達に関与しますが、ランソプラゾールは、このTRAF6の自己ポリユビキチン化を促進しました。ランソプラゾールは特異的にリシン63結合型ポリユビキチン鎖を分解する脱ユビキチン化酵素CYLDを抑制しましたが、ドッキングシミュレーションを行うとランソプラゾールはこのCYLD表面のポケットに安定的に結合し、この結合によってユビキチン鎖C末端は酵素活性中心への到達を阻害され、その酵素活性が阻害されるモデルが導かれました。そして、CYLD表面のポケット構造を改変した変異型CYLDを用いて、ユビキチン化アッセイを行ったところ、ランソプラゾールによるCYLD抑制効果は消失されました。

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[図1]ランソプラゾールによるRunx2活性化機構の模式図。
ランソプラゾールは脱ユビキチン化酵素CYLDを抑制し、ユビキチン化酵素TRAF6自身によるリシン63結合型自己ポリユビキチン化を促進する。リシン63結合型ポリユビキチン鎖はTAK1の自己リン酸化を誘導し、下流のTAK1-p38 MAPK経路によってRunx2の転写活性は上昇する。BMPのリガンドと1型と2型の受容体が結合すると、ランソプラゾールによるRunx2の活性化は増強される。

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[図2]CYLD(灰色)とユビキチン(青)の結合結晶モデル(左図)。
ユビキチンのC末端はCYLDの活性中心(赤)に導かれる。ランソプラゾール(緑)はCYLD表面のポケットに安定的に結合し、ユビキチンC末端と干渉する。ランソプラゾール(スティックモデル)が結合するポケット構造の拡大図(右図)。ポケット構造内部のアルギニン(コドン758)とフェニルアラニン(コドン766)を人工的にアラニンに変換すると、CYLDの酵素活性は保たれたまま、ランソプラゾールによるCYLD抑制効果は消失した。

3.今後の展開

現在、骨形成を促進し骨折治癒を加速する臨床使用可能な低分子化合物は存在しません。ランソプラゾールは、本邦において23年前から、米国では20年前から、欧州では24年前からプロトンポンプ阻害薬として臨床で使われてきた安全性の高い医薬品です。今後は、局所投与でのランソプラゾールの有効性を骨欠損モデル動物において検証するとともに、骨折治療薬としての臨床応用の可能性を検討していきます。

4.発表雑誌

Mishima K, Kitoh H, Ohkawara B, Okuno T, Ito M, Masuda A, Ishiguro N, Ohno K. Lansoprazole upregulates polyubiquitination of the TNF receptor associated factor 6 and facilitates Runx2-mediated osteoblastogenesis. EBioMedicine; Nov. 24, 2015.

English ver.

http://www.med.nagoya-u.ac.jp/english01/dbps_data/_material_/nu_medical_en/_res/ResearchTopics/2015/Lansoprazole_20151127en.pdf