可溶型Siglec-9は、M1マクロファージ活性抑制を介してマウスコラーゲン誘発性関節炎を抑制する。

ポイント

1.背景

Siglec(Sialic acid-binding immunoglobulin-type lectins)9は免疫細胞表面に発現する抑制系受容体です。先行研究により、その細胞外ドメインである可溶型Siglec9は抗炎症作用を持つことが判明しています。本研究では、マウス関節リウマチモデルであるコラーゲン誘発関節炎(CIA)に対する可溶型Siglec-9の抑制効果、および炎症型マクロファージ活性に対する抑制効果を検証しました。

2.研究成果

DB1Jマウス(実験的自己免疫的関節炎に感受性が高いため、関節炎モデルに頻用されるマウスの一種)によるCIAモデルに可溶型Siglec9を経静脈投与し、関節炎の累積発症率、関節炎スコア、血清TNFα濃度を評価し、同時に膝関節、足関節の組織切片の炎症スコアを評価しました。またマウスマクロファージ(RAW264.7細胞、腹腔マクロファージ)をSiglec9と共培養後、炎症誘発物質(INFγ)を投与し、炎症型マクロファージ(M1)マーカー(TNFα、IL-6、iNOS)、抑制系マクロファージ(M2)マーカー(CD206、Arginaze1、IL-10)の発現を評価しました。Siglec9投与群(S群)ではコントロールCIA群(C群)と比較して、関節炎の累積発症率、関節炎スコア、組織スコア、血清TNFα濃度が有意に低い結果となりました。組織評価において、C群は高度な炎症性細胞浸潤、滑膜増生、骨軟骨破壊像を認めましたが、S群ではわずかな炎症細胞の浸潤を認めるのみでした。また、薬物動態の確認のための生体イメージング実験にて、関節炎部位へ可溶型Siglec-9が強く集積していることが確認されました。炎症誘発したマクロファージにおけるM1マーカーの発現は、mRNA、蛋白共に可溶型Siglec9によって濃度依存的に抑制されましたが、M2マーカーの発現の変化はみられませんでした。また、細胞内シグナル経路においてはNFkBのリン酸化抑制が見られました。これらの抑制効果は、共培養前に酵素の一種であるシアリダーゼにより細胞表面のシアル酸除去処理を行うと失われてしまいました。

[図1]
2154-1

[図2]
2154-2

3.今後の展開

本研究により、可溶型Siglec-9が動物関節リウマチモデルに対し有効であり、その作用機序として炎症性マクロファージ(M1)活性を抑制することが確認されました。関節リウマチの治療は生物学的製剤(抗TNFα阻害剤、抗IL-6阻害剤)の登場により画期的な飛躍を遂げましたが、それでもなお多剤無効例が存在します。これらに対して、可溶型Siglec-9は新しい作用機序のRA治療薬としての臨床応用が期待されます。しかし、その受容体や生体内における作用機序、安全性にはまだ不明な点が残されており、さらなる検証を行っていきます。

4.用語説明

  • CIA, collagen-induced arthritis: 動物関節リウマチモデル。
  • RA, rheumatoid arthritis: 関節リウマチ。自己免疫病の一つであり、全身の骨関節破壊を生じ多臓器にわたる合併症を引き起こすこともある
  • Siglec-9:Sialic acid-binding immunoglobulin-type lectins-9であり、免疫系細胞表面に発現している膜型受容体の一つ。

5.発表雑誌

Matsumoto T, Takahashi N, Kojima T, Yoshioka Y, Ishikawa J, Furukawa K, Ono K, Sawada M, Ishiguro N, Yamamoto A. Soluble Siglec-9 suppresses arthritis in a collagen-induced mouse model and inhibits M1 activation of RAW264.7 macrophages. Arthritis Research & Therapy,June 7, 2016.