北米臨床留学

【氏名】大野洋平(平成13年卒)【所属】膝肩班

平成13年卒、膝肩班の大野洋平と申します。
北米での(実際に医師として臨床業務を行える)臨床留学についての原稿依頼を頂きましたので、自身の整形外科医としての経験から得られた情報を提供させて頂きます。

私自身の話

2011年から2013年まで 米国ノースカロライナ州のグリーンビルという田舎町にあるEast Carolina Universityで関節軟骨の基礎研究を目的に留学をしました。渡航当初は2年で帰国する予定でしたが、研究生活中に臨床研修もしたいという思いが強まり、その方法を画策しました。その結果、幸いにも隣国カナダで機会を得ることができ、2013年から2014年までUniversity of Torontoで下肢人工関節手術の研修を、2014年から2016年までUniversity of Calgaryで肩関節手術の研修を行うことができました。いろいろありましたが、自分の人生においてかけがえのない経験となりました。

日本人医師が臨床医として北米で働く可能性

① Residency program (専門医研修)

日本で言えば、研修医~専門医認定を受けるまでの研修期間になります。専門科により年数は異なり、期間の短いもので2年(family medicine、小児科、救急科など)、整形外科は5年程度のようです。医学部卒業直後から始まるものですが、自由に専門科を決められる日本と異なり、各programに応募して履歴書+面接で選ばれる必要があります。特に整形外科は最も人気の高い科の一つで、医学生の中でもトップクラスのみが枠を獲得できるようです。現地の医師免許国家試験を通す必要があることを含め、外国人への門戸が狭いことは想像に難くありませんし、日本で既に整形外科専門医を取得した先生であれば、違う言葉というだけでこの長い過程を一からやり直すこと自体に疑問符はつきます。年齢的な問題もあります。もちろん、もしこの過程を経れば現地の整形外科医となり、その後の選択肢は広がりますが。

② Fellowship program (専門科内の分野別研修)

専門医を取得した医師が、更に細分化された専門領域(subspecialty)の研修をするprogramで、私自身が経験したものです。整形外科領域では肩肘、下肢人工関節、スポーツ、手、脊椎、小児、腫瘍、外傷などの選択肢があります。原則として現地のresidency program修了が条件のものが多いですが、外国の専門医を受け入れるprogramも少なからずあります。ただし、米国、カナダとも州ごとにルールが異なりprogram数も違うため、参加できる可能性のある州自体が限られます。

参加条件ですが、まず日本の医師免許+専門医認定は必須です。それから、英語でのコミュニケーション能力が問われます。米国では、どの州でも米国医師免許国家試験のUSMLE合格が必須なのですが、試験を通す上で模擬患者診察(Step2 CS)があるため、そもそも英語を話せないと合格しません。一方カナダでは、日本の医師免許+専門医を認めてくれるため、純粋な英語試験(TOEFLやIELTS)で基準点(州により異なるが、TOEFL各セクション24点以上、IELTS各セクションband 7.0以上、など)をクリアする必要があります。USMLEと比べれば楽なはずですが、職場で支障なく疎通を取れるレベルを求められるため、純日本人の自分にとっては容易ではありませんでした。 米国で1年以上暮らした上での受験でしたが、恥ずかしながら相当苦労して10回以上受けてようやく通しました…。

米国でfellowship programに参加する為のおおよその流れです。まず、USMLEを通して初めて応募できます。多くのprogramがmatching systemであり、応募した複数施設へ赴いて面接を受ける必要があります。しかも、そもそも外国人医師を受け入れるprogramが限られる上、米国人医師との真っ向勝負になります。しつこいようですが、北米で整形外科はとても人気が高いです。「輝かしいCV(履歴書)+英語(母国語)+幼少時から鍛え抜かれた自己アピール力」を持つ人たちと 対等に渡り合えるかを冷静に判断する必要があるかも知れません。しかも、一般的に応募期限はprogramが始まる1年半〜2年前になります。USMLEを既に通していればよいですが、これからであれば少なくとも2年くらいは更にかかるのではないでしょうか。可能性がゼロとは言いませんが、自分はその歳月を犠牲にする意義を見出せず、断念しました。

一方カナダに関してですが、米国と比べれば可能性が上がります(自分はposition確保と英語試験で相当苦労したので、容易とは口が裂けても言えませんが…)。USMLEは原則不要ですし、応募の時点で英語試験結果を求められない施設もあります。つまり、専門医さえ持っていれば応募できてしまいます。しかも、米国より積極的に外国人fellowを受け入れている印象です。しかし、門戸を開いている分、当然海外からの応募者も多いわけで、やっぱり競争率は高いです。自分は当初、何のコネもなかったので、少しでも可能性がある6、7カ所すべてにとにかく応募しました。しかし現実は、返事が来たらラッキーというレベルで、返事があっても落とされました。そんな中、幸いにも一度断られたトロントの施設から、候補者のキャンセルに伴う繰り上げ採用の連絡が後日届きました。その通知を受けた際の喜びは言葉では表せませんが、その後の「期限までに英語試験を通さないとpositionを剥奪される」という重圧も相当なものではありました。

一点重要なこととして、fellowshipでは、原則として指導者の管理下に臨床業務が許され、手術を含んだ通常の診療業務を行えます。しかしながら、その免許はあくまで研修期間に限られた一時的なものでありprogramが終了したら失効します。ですので、fellowになったからといって、その後もその国の医者でいられるわけではありません。fellowshipという研修を多施設で繰り返すという選択肢もありますが、そもそもsubspecialtyを複数有する意義は低い上に収入的にも厳しく、3年間続けただけで周りから「なんでそんなにやってるの?」というツッコミをよく受けました。1年研修を終えたら独立するが、希望の職が見つからない場合にやむなく別のfellowshipをする、というのが一般的のようです。外国人(日本人)にとっては、下記のように独立すること自体が困難なので、基本的にはfellowship終了=帰国、となります。

③ Staff surgeonとしてのpositionを獲得する

こちらも、受け入れの可能性がある州と全くない州がありますが、米国、カナダとも比較的似たregulationを定めているところが多そうです。基本的に、北米で認定されているfellowship programを複数経験していることに加えて、米国ならUSMLEを、カナダならMCCEEという外国人向けの医師免許試験を通している必要があり、なおかつ、ある施設でstaff surgeonとしてのpositionが確約されていることが大前提となります(これが最大の難関です)。自分もfellowship training後の肩関節外科医としてのカナダ残留手段として、アルバータ州における条件をほぼ満たすことができたものの、カナダ人医師ですら就職難という中でstaff positionを確保するのは不可能で、最終的に断念せざるを得ませんでした。ちなみに、同じ臨床医とはいえ、このindependent staff surgeonとfellow(trainee)との間には、様々な意味でとてもとても大きな違いがあります。

コネはとても大切です

研究、臨床にかかわらず、留学においてコネはとにかく大切です。どんな厳しいregulationがあろうが、常に例外は存在する可能性があります。受け入れる側も、知り合いからの紹介であれば、安心感が強いものです。日本では「コネ」というと、なんとなく否定的な響きが含まれますが、実際には最大の武器です。運ももちろん大切ですが、コネを獲得するのは一つの重要な能力です。
要する年月にも拘らず勝ち目の大きくない真っ向勝負を、コネで回避できるなら、それは大きなプラスになります。

最後に

基礎研究留学にせよ、臨床研修留学にせよ、大切なのは自分がしたいことをすることだと思います。目標を持つことが大前提です。個々の独立が前提の欧米文化では、黙っていておいしい話が降って湧いてくることはまずありません。明確な目標に向かって具体的な努力を続けつつ、常に触手を伸ばし続けていて初めて、何かが起こる可能性が出てくるような気がします。

限定的な情報提供になってしましたが、海外臨床留学を希望される若い先生方に少しでもお役に立てればと思います。より具体的なことに関しましては、ご連絡を頂けましたら喜んで相談に乗ります。


せっかく支給されたが、仕事では一度も着なかった
格好いい白衣。

症例の合間にディクテーションルームで
ボスとディスカッション(雑談)。

肩にアンカー挿入中。

英語試験をなんとか通して、歓喜のワイン。

外来診察後のディクテーション(苦行)。