マウス関節軟骨におけるHyaluronidase-2の発現抑制は変形性関節症を進行させる。

ポイント

マウス関節軟骨におけるHyaluronidase-2(Hyal2)の発現抑制により高分子ヒアルロン酸が関節軟骨に異常蓄積し、変形性関節症が発症、進行することを明らかにしました。Hyal2の発現抑制は、過去に報告されたHyal1の発現抑制によって発症するムコ多糖症IXにおいて、軟骨へのヒアルロン酸が異常に蓄積し、変形性関節症を発症する病態と類似していることを示唆しています。

1.背景

 ヒアルロン酸は様々な組織の細胞外基質の主要構成成分です。ヒアルロン酸は関節軟骨、関節の滑液および眼の硝子体液を含む結合組織において特に豊富です。ヒアルロン酸の代謝と異化のバランスは、結合組織の質の維持にとって大変重要です。しかし、ヒアルロン酸の、特に関節軟骨における分解過程はまだ明らかにされていません。
2つのヒアルロン酸分解酵素(Hyal1およびHyal2)および細胞表面ヒアルロン酸受容体(CD44)は、ヒアルロン酸分解において重要な役割を果たすと推測されています(図1)。
Hyal1の機能不全は、ムコ多糖症(MPS)IXを引き起こします。これは、ヒアルロン酸の蓄積および変形性関節症(osteoarthritis: OA)の発症を特徴とする病気です。Hyal2機能不全マウスは頭蓋顔面および頚椎の異常を示しましたが、関節軟骨および変形性関節症の発症に関する報告はされていません。
西田准教授のグループは、Hyal2発現を関節軟骨特異的に抑制した自然老化マウスおよび関節不安定化モデルマウス、炎症性サイトカインを用いたexplant cultureモデルを使用して、Hyal2発現抑制がOAの発達および進行に関連するかを明らかにすることを目的として実験を行いました。


図1:ヒアルロン酸分解機序

2.研究成果

①自然老化マウスの検討

9ヶ月齢の野生型マウスと比較して、Hyal2 発現抑制マウスはサフラニンO染色が顕著に低下し、軟骨損傷が強いことを証明しました(図2A,E,I)。 ヒアルロン酸染色(B-HABP染色)の結果、Hyal2発現抑制マウスは野生型マウスより関節軟骨における染色性が強く、HA蓄積が多く蓄積していることを示しました(図2B,F)。 関節軟骨におけるヒアルロン酸の量および分子量は、野生マウスと比較してHyal2 発現抑制マウスの方がより高値でした(図3)。 Hyal2発現抑制マウスの関節軟骨では、野生型マウスに比べてADAMTS-5およびMMP-13陽性の軟骨細胞を多く観察できました(図2C,D,G,H,J)。


図2

9ヶ月齢の野生型マウス(A-D)およびHyal2発現抑制マウス(E-H)の自然老化における関節軟骨の組織学的評価、B-HABP染色および免疫染色の結果。
関節軟骨のmodified Mankin score(I)。 ** P <0.01 MMP-13、ADAMTS-5の陽性軟骨細胞数(J) ** P <0.01


図3

 
9ヶ月齢のHyal2発現抑制マウスの膝関節および大腿骨頭から抽出したヒアルロン酸および既知の分子サイズを有するヒアルロン酸に対するセファクリルS-1000ゲル濾過クロマトグラフィーの結果。この方法を用いて、ヒアルロン酸の分子量を測定しました。 各画分のヒアルロン酸含量は、競合ELISA法を用いて測定しました。

②関節不安定化(DMM)手術をした変形性関節症モデルの検討

術後10週間のサフラニン O染色の結果、野生型マウスと比較して、Hyal2発現抑制マウスはプロテオグリカンの染色性が低下し、軟骨損傷が強かったことを証明しました(図4A,E,I)。 ヒアルロン酸染色(B-HABP染色)の結果、野生型マウスと比較して、Hyal2機能不全マウスの関節軟骨における染色性が強く、ヒアルロン酸が多く蓄積していることを示しました(図4B,F)。 Hyal2発現抑制マウスの関節軟骨では、野生型マウスに比べてADAMTS-5およびMMP-13陽性の軟骨細胞を多く観察できました(図4C,D,G,H,J,K)。


図4

DMM術後10カ月の野生型マウス(A-D)およびHyal2発現抑制マウス(E-H)における関節軟骨の組織学的評価、B-HABP染色および免疫染色の結果。
マウス関節軟骨のmodified Mankin score(I)。 * P <0.05、** P <0.01 MMP-13(J)、ADAMTS-5(K)の陽性軟骨細胞数(** P <0.01)。

③炎症性サイトカインIL-1αによる変形性関節症モデルの検討

大腿骨頭をIL-1αを添加して培養した後のサフラニン O染色の結果です。野生型マウスと比較して、Hyal2発現抑制マウスはプロテオグリカンの染色性が低下していました(図5A,E)。 ヒアルロン酸染色(B-HABP染色)の結果、野生型マウスと比較して、Hyal2発現抑制マウスの関節軟骨における染色性が強く、ヒアルロン酸が多く蓄積していることを示しました(図5B,F)。 Hyal2発現抑制マウスの関節軟骨では、野生型マウスに比べてADAMTS-5およびMMP-13陽性の軟骨細胞を多く観察できました(図5C,D,G,H,I)。


図5

IL-1αによる培養後の野生型マウス(A-D)およびHyal2発現抑制マウス(E-H)における関節軟骨の組織学的評価、B-HABP染色および免疫染色の結果。
MMP-13、ADAMTS-5の陽性軟骨細胞数(I) ** P <0.01

3.今後の展開

変形性関節症軟骨においては一般的にヒアルロン酸が減少して細胞外マトリックスが変性していくと考えられていました。しかし変形性関節症を示す患者の中にはヒアルロン酸の過剰蓄積が原因となっている症例が含まれていることが示唆されました。今後、過剰ヒアルロン酸が変形性関節症の原因となっている患者を明らかにし、その病態を解析していくことで新たな変形性関節症患者コホートを明確にすることができ、進行予防などの方策を考えることができるようになります。

4.用語説明

  • 関節軟骨:関節軟骨は軟骨細胞と細胞外基質で構成されています。細胞外基質はコラーゲン、プロテオグリカン、ヒアルロン酸で主に構成されています。
  • ヒアルロン酸:関節、皮膚、脳、硝子体などの細胞外基質に存在し、軟骨の機能維持に極めて重要な役割をしている。
  • ヒアルロン酸分解酵素(Hyal):ヒアルロン酸を分解する酵素で特にHyal1とHyal2が中心的な役割を担っていると考えられています。
  • サフラニンO染色:細胞外基質を構成するプロテオグリカンを染色する方法。
  • MMP-13:コラーゲンを分解する酵素
  • ADAMTS-5:アグリカンを分解する酵素(アグリカンはプロテオグリカンの主な構成要素)
  • IL-1α(インターロイキン1α):サイトカインと呼ばれる生理活性物質の一種類で炎症反応に深く関与している。

5.発表雑誌

Yoshitoshi Higuchi, Yoshihiro Nishida, Eiji Kozawa, Lisheng Zhuo, Eisuke Arai, Shunsuke Hamada, Daigo Morita, Kunihiro Ikuta1, Koji Kimata, Takahiro Ushida, Naoki Ishiguro. Conditional knockdown of hyaluronidase 2 in articular cartilage stimulates osteoarthritic progression in a mice model. Scientific reports. 2017 Aug 1;10.1038/s41598-017-07376-5.