小児
筋性斜頚(きんせいしゃけい)
生後1か月以内に首の横にある筋肉(胸鎖乳突筋)内にしこりと突っ張りが生じ、頭がしこりのある側に傾き、顔はその反対を向いてしまう病気です。通常しこりは生後半年~1年以内に消失し、90%前後の症例は自然治癒します。残りの10%程度の症例では斜頸が続き、1歳半を過ぎても自然治癒しなければ、2~4歳頃に手術を行います。手術方法として当院では突っ張っている筋肉を鎖骨や胸骨から切り離す、胸鎖乳突筋下端切腱術を行います。
母指多指症(ぼしたししょう)
上肢の先天異常の中で最も頻度の高い疾患です。使いやすい手にするため皮膚、腱、神経、血管、骨や軟骨といった組織を丁寧に扱って余剰指の切除を行う必要があります。手術の時期は多指の形態によって異なりますが通常は1歳前後です。
先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)
天性とありますが出生時に脱臼していることはほとんどなく、生後3~4ヶ月頃に明らかとなります。脱臼していても痛みはなく、放置しても歩くことはできるようになります。遺伝要因と環境要因が組み合わさって発症する多因子疾患とされています。女児に多く、少なからず先天性股関節脱臼や変形性股関節症の家族歴があり、生まれつき股関節の形態に異常(臼蓋形成不全)があります(遺伝要因)。股関節の動きを妨げる育児方法(おくるみや横抱っこなど)が脱臼を誘発するとされています(環境要因)。保健所で行われる3~4か月健診で股関節の開きが悪い(開排制限)と指摘されて発見される場合がほとんどですが、気付かれず歩行開始後に見つかることもあります。生後半年以内に見つかると装具治療(リーメンビューゲル法)によって脱臼を戻します(整復といいます)。装具治療で整復されなかった場合や生後半年以降に見つかった場合には持続牽引治療(オーバーヘッド牽引法)で時間をかけて整復していきます。オーバーヘッド牽引法でも整復できなければ手術が必要となります。脱臼が整復されても臼蓋形成不全は残る場合があります。小学校入学前の5~6歳までに股関節の形が正常とならなければ、変形性股関節症の早期発症を予防するため当院では股関節の被りを良くするソルター骨盤骨切り術を行っています。
- Q1 脱臼の治療はどのように行うのでしょうか?
- A1 生後3か月頃から寝返りを始める頃(生後6ヶ月)までの期間は、バンド(リーメンビューゲル)治療によって脱臼を整復し安定化させます。寝返りが始まるとバンド治療では整復できないため、当科では緩徐牽引治療(オーバーヘッドトラクション法)による保存的整復を行います。
- Q2 脱臼が治ったら治療は終わりですか?
- A2 脱臼が整復されても経過観察は必要です。整復後に大腿骨の付け根部分が変形したり(阻血性大腿骨頭壊死)、いつまでも骨盤の屋根の形が悪かったりする(臼蓋形成不全)ことがあるためです。この場合には股関節の形を正常に近づける「補正手術」が必要となります。
- Q3 原因は何でしょうか?
- A3 未だ原因ははっきりしませんが、生まれ持った素因(遺伝要因)に環境要因が加わって発症する多因子疾患とされています。女児に多く、母親や祖母に脱臼の既往があることは遺伝要因の存在を意味します。環境要因として股関節の自由な動きを妨げる着衣や抱っこ(過度のおくるみや横抱っことなるスリングなど)が挙げられます。向き癖は生理的に反対の股関節の開き(開排動作)を妨げるため、強く長引く場合は注意が必要です。
ペルテス病
大腿骨の股関節側の骨の端(大腿骨頭といいます)が原因不明の壊死(細胞が死んでしまうこと)を起こす病気です。6~8歳の小柄な男児に多く発症します。痛みは軽く歩けないことはほとんどありません。痛む場所は股関節に限らず、しばしば大腿や膝周囲の痛みを訴えます。全く痛みがなく足を引きずるだけのこともあるので注意が必要です。診断は股関節のレントゲン検査とMRI検査で行います。壊死した骨や軟骨の強度は弱くなっているため、体重が加わると少しずつ潰れて変形してしまいます。著しく変形した骨や軟骨は元通りにならないため、ペルテス病が疑われた時点で不用意に体重をかけてはいけません。小児には旺盛な再生能力があるため、壊死した骨や軟骨は4~5年かけてゆっくりと修復されます。修復されるまでの期間、股関節の被りを増やして大腿骨頭を包み込み、その中で動かすことでできるだけ球形に近い大腿骨頭に戻るように装具治療や手術治療を行います。
大腿骨頭すべり症(だいたいこっとうすべりしょう)
腿骨の股関節側の骨の端(大腿骨頭)にある成長軟骨板(骨端成長線ともいいます)で骨端がずれてしまう病気です。ずれた骨端が自然に戻ることはなく、体重が加わることによってずれは悪化していきます。体格が肥満傾向を呈した12歳前後の男児に多く、急性や慢性の股関節痛で発症しますが、痛む場所は股関節とは限らず大腿や膝周辺のこともあり注意が必要です。レントゲン検査で診断できますが、後方にずれるため側面からも撮像しないと見逃してしまいます。治療には手術が必要です。ずれの程度が小さければそのまま金属ねじでずれた骨端を固定します。ずれの程度が大きければ矯正骨切り術を行います。当院では創外固定器を用いた矯正骨切り術を行っています。
先天性内反足(せんてんせいないはんそく)
生まれつき足首が曲がって足底が内側を向いた硬い変形を起こす病気です。原因は不明であり、片側例と両側例はほぼ半々の割合です。生後できるだけ早期から矯正治療を開始します。治療の最終目標は足の裏全体で立って歩けるようになることです。世界的にも標準的な治療法となったPonseti法に従って体系的に治療していきます。1週間ごとにギプスを巻き直しながら徐々に変形を矯正していき、最後にアキレス腱を切って矯正は完了します。得られた矯正位を維持するために、特殊な装具を4歳まで夜間は装着します。成長とともに再発した変形には腱の延長や靭帯・関節包の切開を行って変形を矯正する軟部組織解離術を行います。生まれつき正常と比べて小さい足や細いふくらはぎを治すことはできません。
- Q1 普通に歩き、運動できるようになりますか?
- A1 変形が正しく矯正されて足底で接地でき、神経筋疾患を合併していなければ、痛みなく普通に歩いたり走ったりできるようになります。
- Q2 どのように治療していくのでしょうか?
- A2 診断後すぐ、ギプス固定を行いながら徐々に矯正していく「矯正ギプス治療」を始めます。通常週に1回の頻度でギプス巻きを行い、1~2ヶ月かけて矯正していきます。ある程度矯正されたところでアキレス腱を踵の部分で切離し、さらに3週間ギプス固定します。 「矯正ギプス治療」が終わると、矯正された足の形を維持するために「装具治療」に移ります。2つの靴底に横棒を取り付けた装具(デニスブラウン装具)を、立ち上がるようになるまでは1日中、その後は睡眠時に付けるようにします。変形の再発を予防するため、デニスブラウン装具は3~4歳頃まで付けるようにします。装具治療として靴型装具や足底板を歩行時に装着することもあります。
- Q3 手術が必要となることはありますか?
- A3 特に神経筋疾患を合併した内反足では、しばしば変形が再発し足底での接地ができなくなります。こうなると骨同士をつなぐ靭帯や関節包を切離し、突っ張っている腱を延長して変形を矯正する「軟部組織解離術」が必要となります。