2022年10月 合同カンファレンス報告

2022年10月20日、名古屋大学整形外科合同カンファレンスがWebで開催されました。専攻医による4例の症例提示と長野赤十字病院よりご講演がありました。(文責:長谷川純也、井戸洋旭)

日時:2022年10月20日(木)18:30~
場所:Web開催
司会:名古屋大学 山本美知郎 先生

症例1 慢性再発性多発性骨髄炎(Chronic Recurrent Multifocal Osteomyelitis)の診断に苦慮した1例

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院 足立篤哉 先生

慢性再発性多発性骨髄炎(Chronic Recurrent Multifocal Osteomyelitis)の診断に苦慮した1例を報告する。症例は14歳女児。左足底痛で症状を発症し、その後腰痛も発症した。腰痛の増悪を認め当院小児科外来に受診し精査目的に当院小児科入院となった。単純X線写真、単純CT、MRI、骨シンチグラフィーを行い左第5中足骨、第4腰椎と左仙骨に病変を認めた。当科に骨生検の依頼があり、左仙骨から骨生検を行ったが非特異的な炎症所見のみで確定診断には至らなかった。再度骨生検の依頼あり第4腰椎から骨生検を行ったが同様の所見で確定診断に至らなかった。確定診断が付かず3度目の骨生検依頼があり、その際に名古屋大学整形外科小児班に相談させて頂き、慢性再発性多発性骨髄炎に矛盾ないと返答いただき、あいち小児保健医療総合センターに転院となった。転院後はNSAIDs内服にて症状は軽快し1週間で退院となった。本症例のように侵襲的行為を避けるためにも慢性再発性多発性骨髄炎を鑑別診断に挙げることが重要であると考えられた。

症例2 尺骨急性塑性変形を伴う橈骨頭脱臼に対し骨切り術を施行した一例

半田市立半田病院 荻久保修平 先生

症例は13歳8ヶ月男性で特記すべき既往歴認めない。新体操部所属しており、バク転を練習している際に失敗し床で左肘を打撲した。当院初診時の身体所見では左肘関節の自発痛、および圧痛、肘関節腫脹を認めた。手指の運動障害や感覚障害は認めなかった。左肘関節レントゲン検査では左橈骨頭前方脱臼、左上腕骨内側上果骨折を認めた。遠位橈尺関節脱臼やその他の部位での骨折は認めなかった。左橈骨頭前方脱臼に対して透視下での非観血的整復を行ったが整復位を保持できなかった。同日左上腕骨内側上果骨折に対し骨接合術を行った。その際に橈骨頭脱臼に対し観血的整復を行なったが整復はできなかった。術中所見では橈骨頭周囲に介在物など整復を阻害する因子は認めなかった。術前後のレントゲン検査
を健側と比較し、尺骨の湾曲の左右差から尺骨急性塑性変形を疑った。受傷2日後に尺骨骨切り術を予定した。尺骨近位1/4ほどで斜めに骨切りし人工骨を充填、シンセスLC-LCPプレートメタフィジアルを使用し骨接合した。術後は回内回外中間位で脱臼を認めなかった。後療法として3週間ギブス固定、その後は肘関節自動運動、他動運動開始した。術後7ヶ月後の時点では屈曲140度、伸展-15度、回内65度、回外90度まで可能となった。尺骨急性塑性変形を伴う橈骨頭脱臼に対し可及的速やかに骨切り術を施行し良好な臨床経過を得た一例を経験した。

症例3 動脈内留置カテーテルにより骨髄炎をきたし、右第2中手骨が欠損した新生児の1例

安城更生病院 武重宏樹 先生

新生児骨髄炎は稀な疾患であるが、特に血管内カテーテル留置や未熟児では骨髄炎のリスクがあり、診断や治療の遅延により骨・関節機能の重度損傷が残る可能性がある。今回、肘正中部での動脈内カテーテル留置により骨髄炎をきたし、右第2中手骨が欠損した新生児の1例を提示する。症例は、26週1日で緊急帝王切開で出生した女児(965g)。同日よりNICU管理となった。日齢17で右肘正中部に上腕動脈内カテーテルを留置し、その2日後に抜去した。日齢22より右肘穿刺部にびらんが、右手背に発赤腫脹が出現し、抗菌薬を開始。血液培養および右肘びらん部の培養からStaphylococcus aureus(MSSA)が検出された。日齢26で当科にコンサルトされ、手背の穿刺を施行。多量の排膿を認めた。培養からは同様にMSSAが検出された。その後も排膿は継続し、日齢36に創部より乳白色の突出物を認め、小児科医師がゴミとして破棄。同日の単純X線にて右第2中手骨の欠損を認め、破棄組織は骨であったと考えられた。その後感染は改善した。現在3歳の時点で、右示指の自動屈曲伸展は可能であり、母指・示指での粗大把持や右手での書字は可能な程度の安定性はあるものの外見上明らかな短縮を認めている。単純X線では示指基節骨のMP関節面が中手骨頭の欠損によりballooningを認めている。本症例検討項目として、今後の治療方針(再建手術の術式や手術時期)および日常生活について(利き手交換の必要性や装具療法)皆様のご意見をお聞きしたい。

症例4 新鮮アキレス腱断裂に対しTriple bundle法をskip incisionで施行した1例

久見愛病院 小牧健太郎 先生

Triple bundleはアキレス腱の近位断端を2束に分け、近位2束・遠位1束をそれぞれBunnel縫合でまとめ、交差するように縫合する方法である。強固な固定により術後早期運動療法、早期スポーツ復帰が可能と言われている。アキレス腱手術では皮切部の創部痛、断端部の展開による癒着、またアキレス腱の伸張による筋力低下が問題となることがしばしばある。このような合併症を少なくするため今回Triple bundle法を若干改良し、かつskip incisionで行ったため紹介する。

演題1 困った時のJuNction ~基礎から応用まで~

長野赤十字病院 佐藤馨 先生

JuNctionは鋼線を連結するシステムです。鋼線同士を連結することで、物理的な強度があがることを根拠に使用しており、鋼線刺入は骨折部に対して30度>60度>90度の順に固定性が高いです。JuNctionの利点は鋼線同士を連結することで物理強度があがる、早期運動が可能、backout、migrationが少ないことが挙げられます。JuNctionは骨折部の直接的な経皮的鋼線刺入のみならず、創外固定やdistractorとして使用することができます。骨折観血的手術・関節内骨折観血的手術に加えて創外固定加算をとることができますが経皮的鋼線刺入術には創外固定加算はとれません。上腕骨顆上骨折に対してJuNctionを使用することをすすめています。その理由としては曲げ強度がクロスピンニング>JuNction>パラレルピンニング、ねじれ強度はクロスピンニング=JuNctionであり、固定性が優れていることに加えて、撓側からの2本刺入でも固定性が担保され、クロスピンニングの合併症である尺骨神経損傷のリスクを低下させることができるため、JuNction使用による撓側刺入を推奨している。

演題2 カルテの書き方 ~医療安全管理と保険診療編~

長野赤十字病院 出口正男 先生

医療裁判に対する医見書や労災書類などの作成業務を行うようになり、学ぶ機会も少ないのでその経験についてお話する。右季肋部痛で胆嚢摘出手術を計画中、実は化膿性脊椎炎で下肢麻痺となってしまった。7,800万円の賠償請求となったが腰痛はないといったカルテ記載があり、腰椎のない化膿性脊椎炎の診断は難しいと判断され、賠償はなく解決した。カルテ記載の原則は開示の可能性を意識して記載し、他職員の非難の記載はしてはいけない。また確証のないことを記載するのはカルテでは事実として残るのでしてはいけない。常に読み手を意識して書く、訴訟の証拠として重みが大きい、疑問形のまま・問題提起だけで終わらないことを意識することが大切である。特に問題提起だけで終わらないことが必要でアセスメントに対する処置を行っていないことになり、開示された際に問題となる可能性がある。偏見や憶測、人格攻撃と受け取られる書き方、ネガティブな感情表現は避ける。医療側の過誤と誤解されるような反省、非難などは書かない。カルテ記載の原則としては診療に必要なことのみを記載する。客観的根拠か、自分自身の認識・記憶にもとづいて記載することが大切である。最近はカルテがコピ&ペーストが頻回に頻用されることが多く、読影レポートが確認されず、リンパ腫の疑いについて記載があったにも関わらず診療されず、半年後に発覚して問題となったケースも存在した。自分で確認した客観的事実を記載することが大切である。裁判では診療記録の記載内容は原則として事実として認定される。重要な点で記載漏れがあるとそのような事実はなかったという架空の事実で有責になるリスクが生じる。また、本人の証言よりも診療記録の文言自体が重視される。字面・文面が独り歩きするリスクもある。保険診療上のカルテ記載に関しては、例えば呼吸心拍監視を算定して保険点数を取っている場合は、毎日医師が記載しなければならない。栄養指導やリハビリ指導などは医師が診療録にかならず書かなければならない。このようなルールが厳守されなければ、保険診療で得たお金の返還を請求されたり、最悪保険診療ができなくなってしまう可能性があるので注意が必要である。