「肩甲帯周囲の神経損傷」
東邦大学医学部 整形外科学講座
教授 池上博泰 先生
肩関節の神経障害は外傷性もあるが繰り返しの運動での絞扼障害もある。多数の筋肉が動きに関与しており麻痺が生じても他の筋肉で代償して臨床症状がわかりにくい。Physical finding(身体所見) をしっかりとらなければならない。
腕神経叢麻痺、腋窩神経麻痺、副神経、長胸神経、肩甲上神経の損傷を解剖学から始まり、損傷原因、症状、治療方針を大変わかりやすく解説していただきました。
肩関節の神経障害は外傷性もあるが繰り返しの運動での絞扼障害もある。多数の筋肉が動きに関与しており麻痺が生じても他の筋肉で代償して臨床症状がわかりにくい。Physical finding(身体所見) をしっかりとらなければならない。
[腕神経叢麻痺]第1肋骨骨折、脱臼後、頸椎由来の可能性もある。[腋窩神経]肩甲下筋の上を通り手術では内転しておかないと牽引による麻痺が容易に起こるため注意が必要。外傷性、医原性などもあるが神経移植や剥離術の成績は良好。[副神経]9割以上が医原性でありリンパ節生検由来が多い。外転不能となり翼状肩甲の原因にもなる。医原性の場合はクリーンカットで神経筋接合部も近く手術成績は良い。[長胸神経]中斜角筋貫通部、第2肋骨湾曲部(リュック)などで起こりやすい。菱形筋、肩甲挙筋などで代償することがある。時間が経つと戻らないことがある。[肩甲上神経]肩甲切痕、肩甲棘基部などで発生しCross adduction、ガングリオンなどが原因で発生する。肩甲上神経は感覚障害もあり、鈍痛もある。肩関節周囲のだるさは肩甲上神経麻痺を疑う。絞扼部位での圧痛もある。ガングリオンがあればまずは穿刺。ガングリオンがなければ電気生理学的検査を検討する。周囲筋の代償性がありADL障害に直結しない。
肩関節は患者さんの不定愁訴に神経損傷がかくれていることがあるので見逃さないことが大事。
「リバース型人工関節置換術に置ける神経障害を考える」
名古屋大学医学部 整形外科 膝肩スポーツ班
大羽 宏樹
リバース型人工関節置換術(rTSA)の術後合併症に神経障害がある。術中損傷として、肩甲上神経や腋窩神経が重要である。ベースプレートの上方および後方スクリューの挿入時には特に注意が必要であり、肩甲骨窩の展開時には腋窩神経の牽引に留意する。また、術後はスリングの圧迫や肩関節外転・内旋姿勢による尺骨神経障害の危険性がある。またrTSAでは上肢長が1.5〜3cm程度延長し、椀神経叢の牽引や、肘部管での尺骨神経の圧が高まる危険性があり、術後にも注意深い診察が必要である。