2022年12月15日(木)、合同カンファレンスをweb開催しましたので、ご報告いたします。
名古屋大学の浦川浩先生の司会により、専攻医による4例の症例提示と静岡がんセンターよりご講演がありました。
合同カンファレンス記録 (文責:福井順、井戸洋旭、藤井整)
日時:2022年12月15日(木)18:30~
場所:Web開催
司会:名古屋大学 浦川 浩 先生
症例1 アキレス腱再断裂に対して長母趾屈筋腱移行を行った一例
トヨタ記念病院 加藤 健太郎 先生
症例は特記すべき既往歴のない30歳男性。テニス中に左アキレス腱を断裂し、受傷1週後にアキレス腱縫合術を施行した。一部は踵骨付着部で断裂しており、Bunnell法に加え、suture anchorを用いて縫合した。術後創部閉鎖が遷延し、洗浄と軟膏処置を続けていたが、術後3ヶ月時に腱が露出し、MRIでは再断裂を疑う所見を認めた。感染を伴う再断裂を疑い、創部洗浄とデブリードマンを施行した。アキレス腱は再断裂しており、短縮しないようにナイロン糸で端々縫合した。術後創部は閉鎖し、リハビリにて底屈筋力は改善傾向であったが、走ることが出来ないなど本人が満足するほどの改善に至らず、初回手術から15ヶ月後にFHLの腱移行術を施行した。術後3ヶ月で片足での踵上げが出来るようになるなど経過は順調である。再断裂や陳旧例では半腱様筋や下腿三頭筋腱膜を用いたアキレス腱再建を行うことが多いが、本症例では受傷後1年以上経過しており下腿三頭筋の萎縮が疑われ、十分な出力が得られないと判断し、力源を変える目的でFHL腱移行術を行った。
質疑応答・意見
Q:FHL腱はどの部位で切離をしたか
A:Henry’s knotを確認しやや遠位で切離をした
Q:FHL腱移行部位はどのように決めたか
A:関節鏡下で三角骨を切除し、レバーアームをなるべくかせぐように後方へ移行を行った
Q:母趾屈曲の筋力はどのくらいか
A:正確には計測をしていないが、日常生活で不便が全くない程度である
症例2 同側の変形性膝関節症を合併した変形性足関節症に対し一期的に人工膝関節全置換術・足関節固定術を施行した一例
トヨタ記念病院 武内 優子 先生
症例は75歳男性.6年来の右足関節痛が悪化し,手術目的に近医より紹介受診した.変形性膝関節症による通院歴はあったが,膝痛は自制内であった.初診時,右足関節背屈で前方全体に疼痛を認めた.右足関節の関節可動域(ROM)は背屈5度,底屈20度と著しく制限されていた.単純X線撮影で,関節裂隙は消失し,高倉・田中分類Ⅳであった.右膝関節のROMは伸展-10度,屈曲100度であった.単純X線撮影で,内側関節裂隙の狭小化,骨棘形成を認め,Kellgren-Lawrence分類Ⅳであった.立位下肢正面X線撮影では,hip-knee-ankle 12°,talar inclination 13°,tibial plafondinclination 12°,talar tilt 1°.Haraguchi らの報告したHip to Calcaneus axis(HCA)より算出した天蓋荷重点比は96%であった.膝関節痛の訴えは少なかったが,いずれTKAが必要となる可能性を考慮し,近位からアライメント修正を行うという原則に則り,足関節固定術と同時にTKAを行う方針とした.まず,Triathlon total knee system CR(Stryker社)を用いてTKAを行い,鏡視下足関節固定術(AAA)を行った.術後は免荷,足関節ギプス固定とした.術後2週からヒール付きギプスにて1/2荷重を開始し,術後8週より全荷重とした.術後は膝関節,足関節ともに疼痛なく歩行が可能となった.
質疑応答・意見
Q:髄内釘で距踵関節固定まで追加すればTKAを行わずに外反変形が遺残しても問題ないのではないか?
A:基本的には症状のない距踵関節を固定することは許容できない。TKA+距腿関節固定がアライメントを踏まえて適切な治療と考えている。
Q:踵骨が大きく外反しており扁平足など後足部障害の合併も考えられたが、術前の評価はどのように行ったのか、また、足部荷重位側面X線などの評価はどうだったか?
A:扁平足は身体診察でないと判断した。後足部に関してX線評価は行っていない
Q:内反膝由来のOAか。今回はTKAのみでは疼痛改善しないのか。
A:内反膝由来ではないと考えている。内側のみのOAの場合は疼痛改善する可能性があるが外側までOA変化があるものは難しいと考えている。
症例3 無痛性無汗症の骨折治療に難渋した一例
豊田厚生病院 前田 健登 先生
無痛無汗症候群とは疼痛及び発汗の欠失、それを原因とした易外傷性及び知的発達遅滞を特徴とする疾患である。今回同症例を経験したためこれを報告する。症例は6歳男性。ジャンプ後右下腿腫脹を認め前医受診、右脛腓骨骨幹部骨折の診断にて当院紹介となった。所見として多動、温痛覚の欠如を認めた。レントゲンにて転位は小さく、ギブス固定による保存的加療を選択したが固定時に多動のため安静が保てず、転位の増悪を認めた。そのため同日麻酔科管理の下経皮的鋼線刺入術、外固定を行った。手術中体温の上昇やバイタルの変動を認めることなく経過した。術後1ヶ月にて鋼線刺入部の感染兆候が認められたため鋼線を早期に抜去した。以後超音波治療、外固定にて経過観察中術後5カ月、右脛腓骨遠位端骨折、術後半年に左踵骨骨折、骨幹部再骨折を生じ保存治療、荷重訓練の開始が遅延した。術後1年、再々骨折、保存治療。術後1年6ヶ月にて骨癒合を認めたため荷重訓練を開始した。現在下肢長差を認め、足底板装具を装着している。多動多く、意思疎通も困難なため慎重な歩行訓練に難渋しているが再骨折を認めることなく経過している。本症例により、無痛無汗症の骨折において、麻酔管理では体温管理が重要、温痛覚以外の感覚はあり心拍数などの管理は必要ということがわかった。骨折治療における保存治療では外固定ではキャスト固定より石膏ギプスがよいかもしれない。手術では無汗による皮膚の乾燥が強く角質が増し感染リスクが高いため慎重に行う必要がある。後療法でも安静が保てないため様々な点で注意すべきことが判明した。
質疑応答・意見
Q:診断を受けて外来に来ることが多いか?そうでない場合はどうするか。
A:前医では臨床症状により診断された。本当は遺伝子検査が必要。
Q:感染の過去の報告は?
A:易感染性とサイトカインとの関連の報告はない。
Q:創外固定は?
A:安静が保てないため安全のためギプスとしました。
Q:疫学は?
A:日本では180~210名
Q:安静が保てないから骨癒合が遷延する?
A:イエス。→仮骨過形成となる。
Q:1回目の手術の後、ギプスの後は装具を使用した?
A:カット後のギプスを使用した。装具を始めから使用した方がよかったかかも
Q:脚長差は?
A:現在2cm。
Q:最終的に8プレートとかは?
A:感染リスクが高いので慎重に考えたい。
症例4 人工関節周囲骨折後の再手術の予測因子、再手術後の生存率を検討した多施設共同後ろ向き研究
半田市立半田病院 岩田 愛斗 先生
人工関節周囲骨折手術後の再手術率、再手術後の生存率、再手術リスク因子を検討した。2010年から2021年の間に人工関節周囲骨折に対して外科的治療を受けた246人の患者のうち、外科的治療を受けた184人(男性54例、女性130例、平均78.2±9.6歳、BMI:20.92±4.17)を被験者とした。併存疾患、 Charlson comorbidity index(CCI)、Parker mobility score(PMS)、受傷前の移動レベル、バンクーバー分類、PPFに対する治療法、手術時間、PPFから再手術までの期間、再手術の原因、治療法、最終フォローアップ時の生存、死亡日について後ろ向きでの多施設での検討を行った。結果としてステム周囲骨折再手術後の1年生存率は66.7%(15例中11例)であり,術後の再手術は184例中15例8.15%(184例中15例)に発生した。また、ロジスティック回帰分析の結果、Vancouver B3とVancouver Cが再手術の有意なリスク因子であった。ステム周囲骨折再手術後の患者は生存率が低い傾向にある。これは以前の報告よりも低く、専用のプレートの登場や、セメントテクニックなどの技術の向上が関係している可能性がある。Vancouver B3とVancouver CはPPF術後に対する再手術のリスク因子であるため、十分な術後フォローが大事であり、今後の研究で考慮する必要がある。
質疑応答・意見
Q:死亡原因は手術起因するものか。
A:電話で確認し調査したが、死亡原因は不明であった。
Q:過去の報告より死亡率が低いがその要因などはなにか。
A:先行研究は古いため設備などの問題と、アメリカの研究であったため糖尿病合併など合併症の併存が多い、CCIも高かったためと考えている。
Q:B3は再手術率が高いのは納得できるが、Cで再手術率が高い理由は。
A:先行研究でもタイプCが多かったが、原因となる記載はなかった。
Q:全てロッキングプレートで治療を行ったのか?LCPが多い研究はなかったのか。
A:ほぼ全てロッキングプレートを使用していた。先行研究2016年の論文も2010年までのものであったため、ペリプロ用のロッキングプレート発売前でその比較はできなかった。
演題1 整形外科初診の原発不明癌骨転移に対するマネージメント
和佐 潤志 先生
原発不明癌に対する診断アプローチ、初期治療、フォローアップを治療成績も含めてまとめて報告をする。静岡がんセンターでは2018-2020年で骨軟部腫瘍は2943例で、そのうち悪性軟部腫瘍は65例、 悪性骨腫瘍が15例、転移性骨腫瘍は400-500例となっている。2020年は初診時の原発不明癌は31例であり、原発巣は多発性骨髄腫6例、肺癌5例、肝細胞癌5例、前立腺癌4例、胃癌4例であった。文献的には肺がん25% 多発性骨髄腫10%前立腺癌10%、悪性リンパ腫10%、原発不明10%であり似たような分布である。治療内訳として緊急入院が24 例で放射線治療25例、手術2例(骨接合)が行われた。治療成績は入院時のPS3、4が18例で退院時は6例に改善をしており、フォローアップが可能であった24例では平均生存期間17.4か月となっている。適切な治療でPSを改善することができ、生存期間を延ばすことができたと考える。診断アプローチは腫瘍マーカー、画像検査(胸部や疼痛部位Xp、体幹部CT)、CT下針生検が重要である。治療アプローチとしてまずは、オピオイド導入を含めた疼痛コントロール、片桐スコアをもとに予後予測をたてる。整形外科と放射線科が中心となりCancer boardで放射線治療の適応を検討する。切迫麻痺、切迫骨折が高い病変の選別し必要に応じて手術を行い、安静度・リハビリを考える。また、口腔外科診察後にBMA製剤投与を検討する。フォローアップも大切であり、他科とも連携し退院時期を決め、自宅の状況を確認し退院後の生活ができるように調整をする。整形外科医としては原発巣をすみやかに確定し、担当科に引き継ぐこと、PSが悪くなる前に介入しPSを改善させることが重要である。
質疑応答・意見
Q:切迫骨折に関して放射線治療を優先するのか、骨接合を優先するのか?
A:病院の状況にもよるが、安静度が保てるのであれば放射線治療を優先している
Q:脊椎転移で麻痺を合併している症例では手術、放射線治療の適応判断の基準はあるか?
A:脊椎専門スタッフがいないため、保存治療で放射線治療を優先している。その治療が奏功せず予後が期待されるのであれば、脊椎専門病院へ紹介している。
演題2 悪性骨腫瘍切除後の生物学的再建
片桐 浩久 先生
悪性骨腫瘍切除後の再建はMega-Prosthesisがスタンダードだが、合併症が多く、長期成績が不満足な割合が多い。骨軟部腫瘍再建の合併症削減を目指し、生物学的再建を行っている。大きく分けてVascularizedとNon- Vascularizedがある。Non- Vascularizedには同種骨、自家骨、処理骨がある。処理骨手術の感染は0-35%と様々。関節温存術は必ずしもMega-Prosthesisに勝っている訳では無いが、処理骨のGraft survivalは80%で長期のサバイバルという点ではMega-Prosthesisに勝っている可能性がある。症例①16歳男性膝関節近傍の大腿骨骨肉腫。切除範囲は化学療法前の異常範囲、再建は液体窒素処理骨での再建とした。髄内釘で固定し、骨癒合は達成し、MSTS100%、TESS97で良好であった。症例②15歳女性。大腿骨紡錘形細胞肉腫。液体窒素処理骨とVascularized Fibulaを髄内にIn lay Graft。術後8ヶ月遷延癒合のため骨移植し、骨癒合した。症例③13歳男児脛骨骨肉腫。浅大腿動脈から動注化学療法。切除範囲が少なくすることができ、生物学的再建とした。皮弁形成術を追加し、8ヶ月で骨癒合MSTS100%、TESS98屈曲140度。Mega-Prosthesisではこの可動域は期待できない。症例④22歳女性大腿骨遠位骨肉腫。同様に動注化学療法。切除範囲を少なくすることができ、生物学的再建とした。ナビゲーションを使用し、切除範囲を確認し、液体窒素処理骨+靱帯+自家骨移植で再建。7年で骨癒合。外側OAとなるが、処理骨のOAは疼痛の原因となりにくい。Bone UnionはPrimary77%、2ndSurgery追加15%、癒合しなものも8%であった。関節温存した場合、MSTS最初はやや悪いが、最終的に90%ほどと長期成績はよかった。関節温存術は時間がかかり、手技が煩雑、出血も多い完全な病理検査ができない、化学療法著効が必須、患者のリハビリが長いなどデメリットもあるが、長期成績がよく、OAでも疼痛なく、晩期合併症少なく注意すればGraft survivalは100%となり治療の良い選択肢と考えている。
質疑応答・意見
Q:AllograftとAutograftの違いは? 加温処理と液体窒素処理の違いは。
A:Allograftでは骨に置換しないが、AutograftではLiving boneになりやすいと考えている。加温処理と液体窒素処理の違いは、液体窒素処理の方がよい。軟部組織の処理もできて戻せるので加温処理よりアドバンテージがある。加温処理した骨と液体窒素処理した骨では感触的にも骨の癒合が違うと思う。
Q:適応の限界は。
A:腫瘍の範囲が大事だと思う。経験則だが、膝関節の場合は関節面の半分が残せるのが条件。股関節では全部とっても大丈夫だった。最終的に吸収された症例もあるが、殿筋内脱臼して疼痛がなかった症例もあり股関節は適応を広めにしている。