2023年4月20日(木)、合同カンファレンスをweb開催しましたので、ご報告いたします。
名古屋大学の今釜史郎先生の司会により、専攻医による4例の症例提示と名古屋大学附属病院よりご講演がありました。
合同カンファレンス記録 (文責:山本浩登、長谷康弘)
日時:2023年4月20日(木)18:30~
場所:Web開催
司会:名古屋大学 今釜史郎 先生
症例1 関節リウマチ患者の副腎皮質ステロイド中止に影響を与える関連因子‐T-FLAG study‐
愛知医療センター名古屋第一病院 高橋裕 先生
関節リウマチ(RA)診療ガイドライン2020において,副腎皮質ステロイド(GC)の使用は必要最小量を投与し,可能な限り短期間で漸減中止することと明記されているが,実臨床においてGCを中止できないRA患者が一定数存在する.2020年6月から8月の間に受診し,患者背景を調査できたRA患者538例(T-FLAG study)のうちGC使用の157例を対象とした.その後2年間の観察を行いGCを中止した患者を調査した.
症例2 Chipping techniqueを用いた大腿骨非定型骨折の偽関節の治療経験
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 髙橋伸平 先生
症例は47歳女性.1年前から誘因なく増悪する右大腿部痛を主訴に当科を初診した.Xpで右大腿骨転子下に骨硬化した横骨折を認めた.小児期にくる病の既往があり,骨代謝異常に起因した大腿骨非定型骨折の偽関節と診断した.
症例3 治療に難渋した膝蓋骨開放粉砕骨折の1例
岡崎市民病院 北出怜司 先生
症例は33歳男性.軽自動車運転中の事故で受傷.右膝蓋骨開放骨折(Gustilo 3B、AO分類C3),右膝蓋靭帯部分断裂,小腸損傷,多発腰椎骨折あり.受傷直後は小腸損傷に対する緊急手術の為,膝蓋部は可及的な創部洗浄・縫合・抗菌薬投与を行った.
症例4 有茎の巨大腫瘤を伴った膝関節滑膜軟骨腫症の1例
朝日大学病院 清水景太 先生
症例は38歳男性,1年前より右膝関節痛があり,当院受診となった.膝蓋跳動を著名に認め,膝関節可動域制限も認めた.穿刺で300mlほど黄色関節液が引けた.単純MRIでは滑膜内に粒状病変を認めた.
演題1 THAにおけるセメントレスカップの設置角度‐ポータブルナビゲーションの使用経験‐
岡本 昌典 先生
専攻医は人工骨頭の経験は豊富だが、今後THAでのカップ設置行う際の注意事項を説明する
●設置目標:外方開角度、前方開角度で表現する。骨盤座標系にはAPP(解剖学的骨盤基準面)、FPP(機能的骨盤基準面)がある。
malalignmentでは摺動面の摩耗増加、anteversionが少ないと脱臼リスクがあり正しい角度に設置することが重要となる。過去の報告ではInclination 40 Anteversion 15 それぞれ+-10度がsafe zoneとされるが、APPで計測されており、そのまま使用することはできない。またzone内のすべてで脱臼しないわけではない。昨今では+-4.3度以内などさらに詳細なsafe zoneの検討が行われている。
●角度の定義:radiolopraph、operative、anatomicalと定義の混在がある。
radiolograph 正面Xpで測定した角度、coronal planeで測定したもの
Operative saggital planeの屈曲角度がanteversion table planeに対する立ち上がりがinclination
anatomical:寛骨臼の解剖学的前捻に使用。
互いに三角関数で変換が可能である。
●目標角への設定
昨今ポータブルナビゲーションが用いられている。表示角度定義はradiographicとなり、登録方法が仰臥位ではFPPだが、側臥位では体軸方向を使用するものもある。登録方法の違いはFPP基準では仰臥位で両上前腸骨棘を登録し体位変換を行う。体軸方向では体位変換をしたのち体軸方向で骨盤位を登録する。仰臥位ではHipAlignの精度が高いことが報告されているが側臥位HipAlignは精度が落ちる。原因としては体軸方向でレジストレーションを行うので最終的な評価方法であるFPPの再現ができていないことが考えられる。骨盤アライメントガイドでは術中も骨盤をトラッキングすることもできるため側臥位でも精度が担保されていた可能性がある。AR-HipはHipAlignよりも高い精度とする報告がある。レジストレーションが同じ機種では有意な差が認められなかった。精度の担保にはFPP基準のナビゲーション使用が推奨される。
●+α
名古屋若手人工関節セミナーではARHipの体験もできる。
名古屋大学では側臥位手術を基本とし、目標角度はradiolograph基準で Inclination 40 anteversion 20としている。
術中はFPP基準のナビゲーションを使用しており、特に若手の育成に力を入れている。
演題2 関節リウマチの病態形成メカニズム
寺部 健哉 先生
血清反応陽性関節リウマチと高齢発症リウマチの違いについて
リウマトイド因子陽性,抗CCP抗体陽性となるような血清反応陽性関節リウマチは,疾患感受性遺伝子が環境因子に暴露され自己抗体が産生されることで症状が発症する多因子疾患であり,疾患感受性遺伝子はメタゲノムワイド関連解析結果で比較するとH L A -D R B1が多く検出される.遺伝的な背景に関しては従来より主要組織適合遺伝子複合体(M H C)との関連を指摘されているが,H L A(ヒト白血球抗原)以外に関連遺伝子は明らかにされていない.H L Aは白血球の血液型であり血清反応陽性関節リウマチ発症に関与している.環境要因としては喫煙,歯周病,腸内細菌,肥満栄養が挙がり,腸内細菌はたくさんの遺伝子を持っていて,関節リウマチでは腸内細菌の組成が健常者と異なることが報告されており,prevotella denticolaが多く検出されている.
自己抗体である抗C C P抗体はA C P Aの一種であり,検査で特に有用な環状シトルリン化ペプチドに対する抗体で,関節リウマチ患者において感度は64-88%,特異度は98%である.また関節リウマチ発症前から陽性であることが認められ,症状出現前に突然数値が上昇する.リウマトイド因子は関節リウマチの70%で陽性であるが,シェーグレン症候群やC型肝炎でも陽性となることがあり,リウマトイド因子陽性だから関節リウマチという訳ではない.
関節リウマチ患者は好発年齢が上昇していて,高齢発症リウマチの特徴としては男性の比率が高いこと,大関節罹患であること,疾患活動性とCRPが高いこと,リウマトイド因子とACPAの陽性率が低いことが特徴に挙がる.これは血清反応陽性関節リウマチと比較しメジャーのサイトカインが異なることが原因とされている.
両者の患者背景として高齢発症リウマチは罹病期間が短くM T Xの使用割合が低い.
生物学的製剤においても若年リウマチ患者にはT N F阻害薬の使用率が75%を占めているのに対して,高齢発症リウマチではM T Xを併用していないことから,T N F阻害薬の使用率が少なかった.また高齢の方がT N F阻害薬の継続率が低く,長期間の使用ができないことを示していた.
高齢発症リウマチは加齢による慢性炎症が発症の因子として候補にあり,加齢による細胞透過性の亢進や免疫細胞の老化が慢性炎症に繋がるとされいる.
今後関節リウマチ治療は患者ごとに滑膜細胞の炎症の状況を確認し,患者一人一人に効果がある薬を選択できるように治療が進歩していく可能性がある.