2023年6月 合同カンファレンス報告

2023年6月8日(木)、合同カンファレンスをweb開催しましたので、ご報告いたします。
名古屋大学の三島健一先生の司会により、専攻医による4例の症例提示と浜松医療センターよりご講演がありました。

合同カンファレンス記録 (文責:澤村健太、吉田和樹)
日時:2023年6月8日(木)18:30~
場所:Web開催
司会:名古屋大学 三島健一 先生

症例1 左膝痛で発症した後腹膜神経鞘腫の1例

名古屋セントラル病院 溝上 裕也 先生

症例は21歳女性で特記すべき既往歴、家族歴を認めなかった。2021年2月頃より左膝痛が出現した。症状の段階的な悪化があり、2022年8月に前医を受診し、左膝の精査を受けたが異常所見は認められなかった。同時期より腰痛が出現したため腰椎MRIを行ったところ左腰筋内に直径4cm大の腫瘤性病変を認め、同年9月に精査加療目的に当院紹介となった。

症例2 仙骨部褥瘡に対し皮弁形成術を施行した一例

半田市立半田病院 荻久保修平 先生

症例は89歳女性で既往歴には胆石症、高血圧、メニエール病がある。独居で自立した生活を送っていた。自宅内で転倒しその後体動困難となった。転倒後2日目に連絡がとれないことを心配した家族に発見され救急要請。当院へ搬送された。

症例3 距腿関節脱臼開放骨折に後脛骨動脈損傷を合併して生じた下腿コンパートメント症候群の1例

中京病院 金田卓也 先生

症例は55歳男性、埠頭にて船舶を停泊するためのロープと滑車の間に右下腿が巻き込まれ受傷.初診時足背動脈を触知できたが、足関節内側に開放創と骨の露出を認め、また足底の感覚障害を認めた.単純レントゲン写真で距腿関節脱臼を認め、腓骨骨幹部と脛骨内果も骨折していた.

症例4 外傷後の中指PIP関節軟骨欠損に対してシリコンインプラントによる人工指関節置換術で治療した1例

県立多治見病院整形外科 大鹿泰嵩 先生

症例は35歳男性、庭石をつるすワイヤーが左手に直撃し受傷。左示指中節骨、左中指から小指の基節骨の開放骨折を認め、同日骨接合術を行った。左中指中節骨骨折はPIP関節近傍であり、関節面骨片の一部欠損を認めた。

演題1 COVID-19と大腿骨近位部骨折

浜松医療センター 杉本遼介 先生

当院では2021年の2月に当時としては大規模の104人の院内クラスターが発生した。コロナ禍における大腿骨近位部骨折の動向、COVID-19陽性の大腿骨近位部骨折、当院森田先生の手術室内でのエアロゾル発生量に関する研究について発表する。
・コロナ禍における大腿骨近位部骨折の動向。
当院は外傷症例数も多く、2021年の主な骨折の手術件数は静岡県内1位で、毎年200件以上の大腿骨近位部骨折の手術を行っている(コロナ前平均19件/月、コロナ禍平均18件/月)。コロナ前後で年齢、性別、骨折部位、手術方法は変化ないが、手術待機期間は短縮傾向、入院期間は有意に短くなった。当院では予定手術件数には変化なく、診療報酬改定による早期手術の意識、早期転院の取り組み(パス運用や転院調整)が入院日数の短縮につながったと考える。
・COVID-19陽性の大腿骨近位部骨折について。
大腿骨近位部骨折術前にCOVID-19に罹患した患者は9名(搬送前陽性3例、搬送後陽性6例、院内感染1例)いた。全例発症10日以降の隔離解除後に手術を施行した。隔離期間を要するため手術待機期間が有意に長くなったが、術後から退院までの期間には差がなかった。DPCⅡの期間(22日)は考慮する必要があり、5類移行後に向けて隔離期間中の手術について模索し、慎重に症例を検討、91歳女性の大腿骨転子部骨折の1例で隔離期間中に手術を行った。入院後に状態悪化なく、安定型骨折で短時間での手術が予想されたため、科内、麻酔科、手術室と協議し、Day4に骨接合術を行った。麻酔科管理の腰椎麻酔、陰圧室で整形外科医2名、麻酔科医1名、看護師2名がfull PPEで対応した。術後はコロナ感染による血栓リスクを考慮して手術翌日よりエドキサバンを内服開始した(通常手術2日後から使用)。術後7日以内に担当スタッフの体調不良の発生はなく、今後も慎重に適応を検討していく。
・手術室内でのエアロゾル発生量に関する研究について。
日本外科学会より「新型コロナウイルス感染患者のエアロゾルおよび飛沫感染が外科医の重大なリスクとなり得ることを認識する。また、陰圧のかかる手術室が望ましい」と提言されている。しかし、手術室内のエアロゾル産生手技時にエアロゾル発生量を定量的に評価した報告はない。目的は、空気清浄度規格の異なる手術室内での意識的咳嗽時のエアロゾル産生量、範囲、拡散時間を評価することである。Class10000とClass100の手術室を使用し、意識的咳嗽によるエアロゾルを光学式粒子カウンターで測定した。Class10000では口元以外でも径の大きな粒子が検出されることがあり、長時間漂うエアロゾルも確認されることがあるため各種防護対策と十分な換気は必要不可欠である。一方Class 100手術室ではエアロゾルは口元を除く箇所ではほぼ検出されず、たとえ検出されたとしてもウイルス量の少ない小粒子のみであった。本研究結果はCOVID-19のみならず多くの飛沫・飛沫核感染を引き起こす感染症の手術時感染予防に有用な情報であると考えられる。

演題2  大腿骨近位部骨折患者の手術外マネージメント-栄養状態と居住形態-

浜松医療センター 森田大悟 先生

大腿骨近位部骨折の発生数は年々増加しており、膨大な数の患者さんをどうやって効率よくそして合併症少なく管理していくかということが求められるしかしながら術後の歩行能や死亡率はここ30年変化ない。大腿骨近位部骨折患者のマネージメントとして手術法はもちろん、手術外の+αが重要と考えている。看護スタッフから、大腿骨近位部骨折患者の栄養状態が悪いのではないか、と問われ研究を始めた。GNRI(Geriatric Nutritional Risk Index)はアルブミン値とBMIから簡便に算出できる客観的指標である。整形外科患者全体の平均GNRIは他科患者と比べて良かった、大腿骨近位部骨折患者に限ると担癌患者相当だった。大腿骨近位部骨折患者の入院期間と長期入院理由を検討したところ、入院期間が40日以上の長期となった理由は食思不信と誤嚥性肺炎が多かった。長期入院例はGNRIで重度、中等度リスク群がほとんどであった。また、GNRIは入院中死亡リスクおよび術後5年間死亡の予測因子となった。こういった背景からクリニカルパスにNST介入を組み込み、栄養状態不良に対して早期介入が可能となるシステムを作成している。関連して、8050問題についてもお話する。8050問題は80歳代の親と50歳代の子の組み合わせによる社会問題であり、背景には収入や在宅介護の問題がある。このような居住形態と大腿骨近位部骨折リスクの評価を行った。入院時GNRIを居住形態ごとに評価したところ、独居成人+本人あるいは本人夫婦の居住形態で優位に低かった。他家族と同居あるいは独居では高かった。また、対側骨折発生と居住形態を検討すると、独居成人+本人の居住形態で対側骨折発生率が有意に高かった。大腿骨近位部骨折患者から見えてくる整形外科領域の8050問題として、全身状態は不良であるということそして対側骨折リスクすなわち脆弱性骨折発生リスクが高いということが言える。