名古学大学大学院医学系研究科(研究科長・髙橋雅英)整形外科学の石黒直樹(いしぐろなおき)教授、鬼頭浩史(きとうひろし)准教授、三島健一(みしまけんいち)助教(筆頭著者)、神経遺伝情報学の大野欽司(おおのきんじ)教授(責任著者)らの研究グループは、既存医薬品の新規薬効を探索するドラッグリポジショニング戦略により、胃酸分泌阻害薬として広く使用されている「ランソプラゾール」が、骨形成促進に有効であることを明らかにしました。
今回ランソプラゾールについて判明したことは、次のとおりです。
- マウス未分化間葉系幹細胞株やヒト骨芽細胞様細胞株において、ランソプラゾールはRunx2遺伝子の発現を上昇させ、Runx2の核内集積や転写活性化能を亢進させると共に、骨芽細胞分化マーカーを上昇させたこと。
- 患者由来ヒト初代骨髄細胞に投与すると、最終骨分化である基質の石灰化が促進されたこと。
- ラット大腿骨骨折モデルに全身投与すると、骨折部間隙の石灰化骨は増加し、骨折治癒が促進されたこと。
- 骨形成タンパク質bone morphogenetic protein (BMP)のシグナル経路であるTGF-β活性化キナーゼ1 (TGF-β activated kinase-1; TAK1)-p38 MAPK経路を活性化し、この上流に位置するアダプター分子、TNF受容体関連因子6 (TNF receptor-associated factor 6; TRAF6)の自己ポリユビキチン化も促進させ、細胞内シグナル伝達に関わるリシン63結合型ポリユビキチン鎖を特異的に分解する脱ユビキチン化酵素CYLDを抑制したこと。
- In silico構造解析により、ランソプラゾールがCYLDのポケットに安定的に結合し、その酵素活性を阻害するドッキングモデルが導かれ、変異CYLDを用いたユビキチン化アッセイによって、このドッキングモデルが正しいことを実証したこと。
これらの研究成果によって、骨粗鬆症性骨折患者への安価で有効な骨折治癒促進剤の開発が期待されます。
本研究成果は、米国のオープンアクセス科学誌EBioMedicine(米国東部時間平成27年11月24日付け)に掲載されました。
※こちらもご覧ください。
「名大整形トピックス:研究成果」-「ランソプラゾールはTNF受容体関連因子6 のポリユビキチン化を亢進しRunx2を介した骨芽細胞分化を促進する」